ぐるぐる新聞 大正大学cwc-Eゼミ

ぐるぐる新聞 大正大学cwc-Eゼミ SUGAMO COMMUNITY PAPER

09/12/2015

No.12
西巣鴨界隈散策写文集N町サンポ記西巣鴨界隈を当てもなくカメラを持って徘徊する。気になった風景を気まぐれにシューティング。その写真を選択して物語を紡ぎ出す。現実と幻想との綾取り。これがN町サンポ記です。

ブラックコーヒー 深谷直紀
書いて赤面、読んで赤面。自分的にもコーヒーみたいな、にがーい作品です。N町奇譚坂本光希「写真を撮ってくださいませんか?」美女に連れられ、変わらぬ町を撮り続けた男の譚。

N町奇譚 坂本光希
「写真を撮ってくださいませんか?」美女に連れられ、変わらぬ町を撮り続けた男の譚。

ベイ・クドチー・ズ 紺野 愛
ある日突然妖精が目の前に。妖精が押し付けてきたスプーンには不思議なチカラが!?日が沈む前に東郷友哉N町に住むのは人間だけではない。小さな者たちの日常に触れて見える違った世界。

日が沈む前に 東郷友哉
N町に住むのは人間だけではない。小さな者たちの日常に触れて見える違った世界。

WHITE NOON DREAM 小野 麗
あたたかな昼下がりに、きまぐれな彼と一緒に巡った、知っていたはずの新しい帰り道。

近藤あかり 高田万梨子
私は猫である。今夜もあなたの背後を狙います。猫記。秋の哀愁小園 廉晩秋の冷たさは単なるセンチメンタリズムかファンタジーの窓口か?

秋の哀愁 小園 廉
N町奇譚坂本光希「写真を撮ってくださいませんか?」美女に連れられ、変わらぬ町を撮り続けた男の譚。晩秋の冷たさは単なるセンチメンタリズムかファンタジーの窓口か?

N町サンポ記 01ブラックコーヒー深谷直紀 無意識にそのボタンを押す俺は、一体何を考えているのだろう。多分、自分でもわかってない。わかっていることなんて何一つだってない。でも歩み続けている自分がいる。狭い路地をコーヒー片手に。目的、そんなも...
09/12/2015

N町サンポ記 01
ブラックコーヒー
深谷直紀

 無意識にそのボタンを押す俺は、一体何を考えているのだろう。多分、自分でもわかってない。わかっていることなんて何一つだってない。でも歩み続けている自分がいる。狭い路地をコーヒー片手に。目的、そんなものなんてない。あったとしても俺には、今の俺にはわからない。

 この道、わたしは覚えてるよ。狭くてふたり、並んで歩けないんだよね。そんなときは、キミの脇の下に潜り込んで、腰に手をまわして…。シャイなキミはちょっと顔を赤くしながら、でも、転ばないように支えてくれて。あっ、この自動販売機。キミ、いつもこの自動販売機でカフェオレ買ってたよね。そういえば、初めてのキスはこの自動販売機のおかげだったんだよ。間接キスなんだけど。ひとくち飲むか?って急にカンを差し出してきて。その時だけは私が赤くなっちゃって…。懐かしい。ねえ、覚えてる?ねえ、聞いてる?

 さっきからうるせーな。覚えてねーよ、聞こえねーよ…俺には。俺にあるのはブラックのコーヒーと…後悔だけなんだから。最後まで一緒に居れなかった。お前は俺の努力を裏切ったじゃねーか!…ごめん。でもさ、わかんねーんだよ、お前のこと。知りてーんだよ、知りたかったんだよ、もっともっともっともっと…一緒に居たかったんだよ。でもさ、

 さっきから急にどうしたの? びっくりして、ねこちゃんがこっち、振り返ってるよ。…居るじゃない、私はここに。キミのとなりに。変なの。

 わかってんだろ?
 わかんない
 知ってんだろ?
 知らない
 もう、いいだろ?
 よくない

 …ブランコにまたがりながら自問自答を繰り返す。俺の横にはやっぱりあいつが居る。いるはずのない奴が、居る。

 ダメ
 ……

 まだダメ。不合格。キミのこと好きだもん。ずっと、ずっと、ずっと

 何が駄目なんだよ
 自分で考えて。私のこと、もっと考えて

 わかってんだよ!!!お前はもう居ない。居るわけねーんだよ。どこにも…。だってお前は死んだ人間なんだから。でも、忘れられるわけないじゃん!!!

 ……
 そこに居るの、わかってるぞ?
 うん
 ……

 わたし、私は幸せだったよ。この街に生まれて。確かにこれといった特徴は無いんだけどさ。でも私には特別。狭い路地も、ちいさなちいさな公園も。全部が特別。なんでかって? それは、えっと…。キミと出会って、キミと一緒だったからかな? 恥ずかしいこといわせないでよ!!もー。

 ……うっ

 涙を流すことも、寂しさを口に出すこともなかったけどさ。でも嬉しかった、素直に。キミが病室にブラックコーヒー片手に入ってきたときにさ、気がついたんだ。いや、本当はもっと前から変わろうとしてくれてたのかもね。ずっと側に居たのに…彼女失格かな?

 ……

 ブラックコーヒーってなに? 大人になったつもり?? その考えが、もう子供っぽすぎ。でも…ありがと。強くなろうとしてくれたんだよね。私のために。安心してさよなら、死ねるようにって。でもさ、余計に心配になっちゃった。無理してるんじゃないかなってさ。

 ……

 だからさ、今日もキミの側に居るよ。ずっと、ずっと

 …でもさ、もう、いいよ。ありがとう。こめんな

 …

 本当はもっと甘えたかった。死なないでって、泣きつきたかった。きっとお前にはすぐにバレちゃうとも思った。けどさ、そうするしかなかったんだよ。俺のため、自分のためにさ。お前が死んだあと、俺がひとりで生きていくために。

 …

 でも、ずっと後悔してた。残されたわずかな時間を精一杯、一緒に過ごすべきなんじゃなかったのかって。でも、やっぱり俺の考えなんてお見通しだったみたいだな…。ごめん、お前のこと、見くびってたわ。

 うん、合格。やっと伝わった

 ああ

 もう大丈夫かな? まだまだ心配だけど。最後のお願い。だからさ、もうやめなよ、そんな顔するの。そんなんじゃ安心できないよ、わたし。心配。何回も何回も戻って来なくちゃならないじゃない。だからさ、ねえ、お願い。もういっかい笑おうよ。私の好きだった、大好きだったあの笑顔で送り出して…

 うっ…、ううっ…。あ、ああ。わかったよ。…、またっ、また、遊びに来いよ。俺は…いつでも…待ってっから……

 死んだ人間に無茶言わないで。もう、一人でも大丈夫でしょ……キミは……

 コーヒーはそのまま置いていこう。きっとお前に必要だろうから。

N町サンポ記 02N町奇譚坂本光希「それじゃあ、よろしくお願いします」 ほっそりとした手の先で清楚に佇む美しい女性は、西尾と目が合うと、照れたように目を細めて微笑んだ。西尾は晩冬に咲く桜のような淡い笑顔に見惚れながら、自分の身に訪れた幸運に...
09/12/2015

N町サンポ記 02
N町奇譚
坂本光希

「それじゃあ、よろしくお願いします」
 ほっそりとした手の先で清楚に佇む美しい女性は、西尾と目が合うと、照れたように目を細めて微笑んだ。西尾は晩冬に咲く桜のような淡い笑顔に見惚れながら、自分の身に訪れた幸運に感謝した。そして、定番の掛け声とともに人差し指をボタンに押し込んだ。

 アルバイト先は店舗の改装で昨日から臨時休業になっていた。西尾は、予定外にできてしまった暇を持て余していた。置き時計が午後の1時を指したところで、西尾はようやく観念したように布団から起き上がると、スマートフォンを上着のポケットに入れたところで、過去に一度だけ使ってそのまま放置していたメタリックブルーのデジタルカメラが目に留まった。スイッチを押して電源を入れた。カメラが正常に機能していることを確かめると、持ち歩くには少し重いそれを手にして外に出た。

「すみません、もしよろしかったら、写真を撮ってくださいませんか?」
 当てもなくあちこち歩き回っていた西尾の背後で、誰かを呼び止める声がした。特にこれと言った特色もない閑静な住宅街である、自分よりも頭一つ分ほど低い背丈の見慣れない女性が、こちらを見上げていた。美人の部類に属する妙齢の女性である。つるりとした黒い瞳と目が合う。しかし、女性の手にはカメラはなく、どこかに携帯電話を持っている様子もない。
「写真って、俺のカメラで……ですか?」
「はい。どうかあなたのカメラで撮ってほしいんです」
 女性は愛らしく小首を傾げると、真下から西尾の瞳を上目遣いにじっと見つめた。……西尾が正気を取り戻したのは、既に勢い込んだ二つ返事が口から飛び出したあとだった。

「ここです。ここで撮ってください」
「はあ、ここ、ですか、もう少し先にいけば、公園とか商店街とかありますけど。そっちの方がまだ見どころが――」
「ええ、ここで良いんですよ。駄目ですか?」
「駄目ってことは、ないんですけどね……」
 ――さっきから、ずっと同じような会話ばかりしている気がする。
 女性は西尾を気にする様子もなく、一体何を見るものがあるというのか、道路に立ち、興味深げに辺りを見回している。女性が撮影してほしいと言う場所は、何の変哲もない長閑な住宅街の中ばかりであった。奇妙なことになった。西尾は女性の容姿に釣られてのこのことついていった自分の迂闊さを後悔しはじめていた。
「付き合わせてしまって、ごめんなさい。でも、これで終わりですから」
「いえ! そんな、大丈夫ですよ。どうせ、暇だったんです」
 西尾は大きく片手を振って否定しながら、内心、ほっと胸を撫で下ろした。
「ふふ。それじゃあ、よろしくお願いします」
「はい! じゃ、いきますよー……ハイ、チーズ!」
 一瞬の暗転のあと、カメラはかろうじて『スクールゾーン』と『止まれ』が読めるほどの消えかけた道路標示の中央で、こちらに微笑みかける黒髪の美女が佇む風景を切り取った。
「あっ、すいません! 今のちょっとブレたかも――」
 撮った写真を確認しようと、西尾は両手でカメラの操作キーを動かしながら顔を上げた。
 そして、固まった。
「あの人、どこ行ったんだ?」
 そこにあるはずの姿が、忽然と消えた。呆気にとられ、カメラをもう一度見下ろした。画面の中には、撮った記憶のない、見慣れないが見覚えのあるような、古ぼけたセピア色の町並みが広がっている。そこにも、女性の姿は映っていない。代わりに、可愛らしいおしゃまそうな女の子が、にっこりと西尾に笑いかけていた。
 一陣の風が、西尾の背中から前へ吹き抜けた。風に煽られた前髪が視界を遮る。
「うわっ、強い風だなー……あっ」
 邪魔そうに髪を払い除けて画面を見直した西尾は、驚愕に目を見張った。西尾の前には、ただ見慣れた町並みばかりが延々と続いていた。

N町サンポ記 ベイ・クドチー・ズ紺野 愛 この町には隠された秘宝が眠っている。しかし、それは都市伝説だと思っていた。あの日までは。私は大学3年生。只今就活中である。今日も携帯を操作し就職サイトからのメールをチェックする。『ヘーセイトレジャー...
09/12/2015

N町サンポ記 
ベイ・クドチー・ズ
紺野 愛

 この町には隠された秘宝が眠っている。しかし、それは都市伝説だと思っていた。あの日までは。私は大学3年生。只今就活中である。今日も携帯を操作し就職サイトからのメールをチェックする。『ヘーセイトレジャーハンター協会?』知らない企業だ。
「初めまして。あなたは素晴らしい力を持っている。そのお力を是非私どもにお貸しください。つきましては本日二一○○(フタヒトマルマル)ご近所の公園にてお待ちしております。」
 ○月×日二一○○(フタヒトマルマル)。私は馬鹿かも知れない。あんな悪戯メールを真に受けて、こんな所に来ているのだから。「初めまして。来て頂けて光栄です。」
 どこからともなく声が聞こえた。
「ここですよ、ここ。」
 足もとを見る。そこには小さなタキシードを着た人形が、こっちを見上げて立っていた。「私は『ヘーセイトレジャーハンター協会登録妖精』のパリーでございます。」
 彼は私の目の前に飛んで見せた。きっと、夢を見ているに違いない。
「それでは、ヘーセイトレジャーハンター協会への入社式を始めます。」
「ちょっと待って、入社式?」
「あなたは私どもからのメールを見てここにいらした。それは即ち、私どもと契約を結んで頂け……」
 これは夢か? 話についていけない。
「……さん、私の話を聞いているのですか!?」
「え? あ、はい。」
 パリーは満足そうに入社式を再開した。
「それでは、手を出して下さい。」
 私が手を出すとシルバーのスプーンが手の上に現れた。
「あなたは、そのスプーンを使ってミッションを遂行して頂きたい。」
 ○月×日○七三○(マルナナサンマル)。自室。目覚ましを止め、体を起こす。やはり夢だった。そう思い机の上を見ると、パリーが座っていた。
「おはようございます! ミッションのターゲットですが、秘宝『ベイ・クドチー・ズ』と判明しました。所在は大学の近くにあることはわかっているのですが。」
「ベイクドチーズでしょ? 大学の最寄り駅のところに売ってたような。」
 同日一六三○(ヒトロクサンマル)。放課後、駅前の喫茶店。
「これはまさしくベイ・クドチー・ズ!」
 パリーは店頭のショーウィンドーに飾られているベイクドチーズを指差した。
「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」
 私は店の奥の席に座った。マスターの奥様と思わしき人物がメニュー表とお水を持ってきた。
「いいですか。私たちがヘーセイの人間だとバレてはいけません。」「え、どうして?」
「昨日全てお話したではないですか。」
「あー、あれね。」
 隣でごちゃごちゃと言っているパリーを無視して、メニュー表を開く。
「これです! しかし単品での注文は控えてください。正体を悟られる可能性があります。」
 仕方がないので私は『ケーキセットA950円』を注文することにした。
「ケーキセットAをお願いします。」
「セットのお飲み物はコーヒー、紅茶、抹茶、ぶどう果汁どれにします?」
「間違った選択肢を選んでは駄目です。罠の可能性があるので除……。」
「紅茶でお願いします。」
「セイロンとアールグレイどちらになさいますか?」
「次の選択肢に進めたということは、先ほどの選択肢は正解だったようですね。」
「セイロンで。」
「はーい、ちょっと待っててね」
そして、5分後ケーキセットが私の前に運ばれてきた。
「これが秘宝ベイ・クドチー・ズの輝き。一見シンプルに見えるが、そのシンプルさに上品さをも兼ね備えている。さあ、あのスプーンで一口食べてみてください。」
 私は言われた通りにスプーンでケーキを小さく切って口に運んだ。口に入れたとたん、頭の中にケーキの材料・分量に作り方隠し味までが鮮明に、まるでレシピを見ているように流れ込んだ。「データを確認いたしました。ミッション・コンプリートです。」
 ちなみにセイロンティーとベイ・クドチー・ズの相性は最高であった。完食した私は何食わぬ顔でお会計を済ませ、店を後にした。

N町サンポ記 04日が沈む前に東郷友哉 雄大くんは、今日は体育の授業があるみたいで、朝お気に入りのスポーツシューズを履いて出て行った。そうか、今日は校庭で見られるんだ。僕も後でいかなきゃ! でも見に行くだけで声はかけちゃいけないから少し残念...
09/12/2015

N町サンポ記 04
日が沈む前に
東郷友哉

 雄大くんは、今日は体育の授業があるみたいで、朝お気に入りのスポーツシューズを履いて出て行った。そうか、今日は校庭で見られるんだ。僕も後でいかなきゃ! でも見に行くだけで声はかけちゃいけないから少し残念。だって、僕の散歩がばれたら大変なことになるんだ! 家出できないように外だけでなく家の中でも紐で繋がれるはず。だけど、それでも散歩にでるんだ。だって、一日のほとんどを家の中で過ごす一生なんて退屈そのものだからね。

 太郎がこない。それは私が5限をサボり家にサークルの荷物をとりに帰った際に気がついた。玄関に入るといつも真っ先に私の元へ走ってくるあの愛くるしい姿がなかったからだ。名前を呼んでも反応はなかった。まぁ、寝ているのだろう。

 商店街についた。雄大くんの通っている小学校までもう少し。賑やかすぎるその通りは耳の良い僕にはうるさくて踏まれないように気をつけながら通りを素早く駆け抜けた。

 窓際にある太郎のベッドはもぬけの殻だ。毛布をめくるが奥に潜っているわけでもなかった。代わりに網戸が破れていることに気がついた。破け方からして自然に破けたとは思えない。その穴は玄関からでられない彼にとって、外の世界へと繋がる入り口になっていたのだ。逃げたのだろうか。それとも散歩に出かけているのだけなのか。
 いづれにせよすぐに見つけなければ! 車に惹かれたら…攫われたらどうしよう! だってあんなに小さく、可愛いのだ。
 私は太郎を探すべく家を飛び出した。

 健太くんが窓を閉め忘れたんだ。健太くんがいなくなったのを見計らい、僕は勢い良く外へと飛び出した。むにゅ。見えない壁が邪魔をした。網戸だ。ツルツルした窓と違い網戸は爪で引っ掻くと千切れそうな音をたてた。僕は何日も何日も引っ掻いた。すると一箇所、また一箇所。ぷちっ、ぷちっと音を立て千切れたんだ!
 こうして僕の道は開かれた。

 河川敷に公園。いつも連れて行く散歩道の全てを探したがみつけることは出来なかった。弟の迎えにも行かないといけないし、一度帰ろう。私は破れた網戸に気づけなかった自分の注意力のなさに肩を落とし、帰路へとついた。

 N小学校についた。校庭に入るとバレそうなので学校の外から様子を見る。ちょうど体育の授業中のようで雄大くんの姿が見えた。雄大くんのこと大好きだから、雄大くんをみれるこの散歩道は僕の一番のお気に入り。雄大くんは学校に遅刻しそうな朝、お母さんに車で送ってもらう。その時にいつも隣の椅子からこの道を見て覚えたんだ。
 授業も終わったし、夕焼けとともに気温も下がってきた。帰ろう、だって寒いんだもの。寒さには弱い。だってご先祖様は南米生まれだからね。まぁ、僕は生まれも育ちもこのN町なんだけどね。

 さて、健太が家に帰るとずっと家にいたと言わんばかりにすやすやと寝ている太郎を見つけた。
 私は説教する気にもなれなかった。グダグダ言ったところで気にもとめないだろうし、第一に伝わるかどうかも怪しいところだ。楽しみを奪うのは心が痛むが危険な目に合わせるわけなはいかないから仕方がない。出られないように窓を閉めた。「ごめんな、庭までなら出れるようにしてやるから許してくれるか」私がそう言うと太郎は耳を持ち上げ返事の代わりに小さく尻尾を振った。

N町サンポ記 05WHITE NOON DREAM小野 麗 帰るときにはコートなんて脱ぎ捨てていた雰囲気に、どこか違うところへ行きたくなったのだ。家への帰り道、少しだけ寄り道をしようと歩き出す。 しかし、しばらく歩いてみても、目的地は自分の...
09/12/2015

N町サンポ記 05
WHITE NOON DREAM
小野 麗

 帰るときにはコートなんて脱ぎ捨てていた雰囲気に、どこか違うところへ行きたくなったのだ。家への帰り道、少しだけ寄り道をしようと歩き出す。

 しかし、しばらく歩いてみても、目的地は自分の家。どこか見覚えのある景色に飽きれ、うつむいてしまった。そんなときだった。
「あっ! 足跡―!」
 きっと、塗料が乾く前に踏んでしまったのだろう。道路と歩道を仕切る白線に、綺麗にスニーカーの靴底を残していた。クッキリと残された足跡を見つけて、ふっと笑みがこぼれる。寄り道をした楽しさが戻り、足跡の先に目を向けると、【彼】が佇んでいた。思わず魅入ってしまったのだ。きれいな見た目と動き……。「嗚呼、どちらに向かわれるの?」

 【彼】の背中を追っていくと、歩いたことのないような道に向かっていた。もちろんついていく。どこかワクワクしている自分がいた。しばらく追いかけていたら、【彼】が立ち止って笑みをこぼしたのだ。
「何を見ているのかしら? まぁ、かわいい。彼はこういう和雑貨を好きなのかしら……?」
 ポツンと建てられた掲示板のようなショーケースに、毬や紙の小さな傘やお花が置いてある。こんな道から入ったところに、なぜ可愛い飾りが展示されているのだろう?中身だけではなく、木枠も劣化していてどこか古い感じがする。思いにふけっていると、【彼】は歩き出してしまった。

 今度はひらけた道を通って、大通りに向かう。けれど人はいない。じーっと【彼】の背中を見ていたが、こちらに気付く様子はなく、どんどんと先に向かってスピードを上げる。いきなり立ち止まって、少し先にあるビルの下へキラキラした目で近づく。「何を見ているのかしら? あら、自転車が気になったのかしら?行ったり来たりしているわね。」
 そこには少し驚きを感じるような駐車スペース。置いてある自転車は駐輪や、飾っているというよりも、車の進入を塞ぐポールの代わりや、三角の看板を支えるものとしての役割が多そうだ。【彼】は興味津々だが、どこにでもあるようなママチャリといった印象だ。ここに駐車させる気も、駐車する気もなさそうな場所であった。しかし、【彼】は珍しいものを見つけたように、キョロキョロしながらその風景を見ていた。と思った瞬間、突然違う方向に走り出してしまった。
「ま、待って!」
 今度は、草や木が生い茂ってるような狭い道だった。けれど、とても楽しい。【彼】が木の陰や葉で、チラチラと消えたり見えたり。その先に【彼】を包むように突然の光が見えて、目の前に道が広がる。そこは、小さなアパートの空きスペースの様だった。「こんなところに、井戸水をくむ道具?」
 今度、【彼】が見つけたのは昔懐かしい手押しポンプだった。残念ながら押してみても使えないようだが、ギコギコして遊んでいる。さらに、【彼】は近くの螺旋階段にのぼってみたり、なんだか楽しそう。キラキラした顔でしばらく遊んでいたが、ふっ、と鼻を鳴らし満足したのか、また歩き始めた。

 クルり。人通りの少ない細い道に入ると、【彼】が振り返った。
 どきり……ドキドキドキドキドキドキ。
『何か御用ですか?』
 見つかってしまったが、ここで引き返すわけにはいかない。「あなたのことを知りたくて、……追いかけてしまいました!!
 しかし、【彼】はきょとんとして、不思議そうな顔で私を見つめる。
『あなたはとてもおかしなことを言う。僕は君で、君は僕じゃないか。』

N町サンポ記 06近藤あかり高田万梨子 彼女は、誰かと電話をしているようだった。話の内容から察するに、どうやら好きな男に、女として見れない、ウケるといわれたらしい。商店街の真ん中で真っ昼間から携帯電話に向かって友人と思わしき人物に喚き散らし...
09/12/2015

N町サンポ記 06
近藤あかり
高田万梨子

 彼女は、誰かと電話をしているようだった。話の内容から察するに、どうやら好きな男に、女として見れない、ウケるといわれたらしい。商店街の真ん中で真っ昼間から携帯電話に向かって友人と思わしき人物に喚き散らしている。なるほど、事前調査通り、声が大きい。

 近藤あかり、彼女が次のターゲットだ。

 私はいわゆる盗みというものを生業として生きている。どんな小さな音も聞き逃さない耳、暗闇でもしっかり見える目、どんな隙間にでも入り込める柔軟な体。さらには周囲の安全を確かめてくれる便利なシッポも。ネコ目ネコ科ネコ属、生粋の猫だ。
 今までもこの姿で油断したターゲットを何人も泣かせてきた。盗みということにおけば、俺たち猫に勝てる種族は他にいないだろう。

 事前に調査したルート通り住宅街を進んでいるターゲット、今回は簡単に終わりそうだ。「意味わかんないよね、あいつホント最低!」
 ズン、ズン、とまるで怪獣かのように地面を揺らしながら進んでいく。たいそうご立腹のようだ。
 しかし、こうして改めて雌という生き物を観察していると、なんと忙しない生き物だろうと思わざる得ない。先ほどから止まることをしらない、むしろ加速してるとさえ感じる弾丸トーク。ボコスコに言われているナイトウ氏にも同情する。
 猫界でも雌というものは恐ろしいもので、先日、知り合いの雌に鼻先にミルクが付いていることを教えてあげると、それはもう素晴らしいくらいの暴れっぷりだった。後で気がついて恥ずかしい思いをするのは自分なのに、なぜか怒られた。理不尽である。どこの世界でも雌と雄の関係性は変わらないのかもしれない。 

 さて、ルート通りに進むと、彼女はこのあと公園を通るはず。その公園で彼女との接触を図り、盗むという計画になっている。次の角を右を曲がれば公園だ。

 一向に電話をやめる気配のないターゲット。電話を繋がれたままでいると少し面倒だが、時間もあまりないし、仕方あるまい。
 接触、開始!

「それでさ、その時も……あっ、猫だ…」
 彼女は私に気付くと、全く警戒することなく、体を触ってくる。べたつく手で触られるのは多少不快だがここは我慢。「大人しいなぁこの子………っヤバい!何これ!すごいモフモフしてる!」
 この毛には少量だが中毒性のある成分が含まれているのだ。第一ミッションクリア。これでターゲットはもう逃げられない。

 少し嫌がるそぶりを見せたり、耳の裏を足で掻いてみたり、ターゲットの油断を誘う様々なアプローチをする。「あー…可愛い……、見てるだけでさっきまでのイライラが消えてゆく…」 
 よし、頬が緩んだのを確認。そろそろ良いだろう。背後に回って、すかさずモフモフだ!「足元スリスリしてきたぁー」しゃがんだ彼女、目線が自然と近くなる。いける。たまに意味不明な単語を発しているが、構わない、このまま一気にたたみかけてやる。
「にゃあ…」
 計算されつくした角度。そしてか細い声。完璧だ。どさり、近藤あかりが地面に倒れこむ。

 今夜も、またひとつのハートを奪ってやった。

 これだから猫はやめられない。

N町サンポ記 7秋の哀愁小園 廉  いったいどこの田舎かと訪ねてしまいそうな人のいない風景。都電荒川線を庚申塚駅から線路沿いにふらふらと歩いてみるとその静けさが物悲しい。少し脇道に入ると、その無人の静寂と不気味さを覚える電柱から、異界に迷い...
09/12/2015

N町サンポ記 7
秋の哀愁
小園 廉 
 いったいどこの田舎かと訪ねてしまいそうな人のいない風景。都電荒川線を庚申塚駅から線路沿いにふらふらと歩いてみるとその静けさが物悲しい。少し脇道に入ると、その無人の静寂と不気味さを覚える電柱から、異界に迷い込んでしまったかのような錯覚に陥る。さっき渡った踏切が異界の入り口だった。踏切、鏡、トンネルはゲートとしてはメジャーな部類だ。物理的に本来通り抜けることのできない鏡や、暗闇が本能的に警戒を呼び起こすトンネルと違い、踏切で世界を移動するのは比較的簡単だ。ただ渡るだけでいい。それは踏切の音が、文を切る、すなわち呪文を発動することに通じる点や、そもそもの渡るという行為が通ることよりも世界移動をイメージしやすいという点に起因する。 
 さて、この世界はどんな世界だろうか。風景のみそっくりそのままの、生物の存在しない模造世界? 人間の代わりに他のナニカが支配する世界? そんな考えを巡らせながら次の駅を目指して歩く。 
 人のいない静かな駅。しかし、蛍光灯は明滅していないし、廃れているというふうでもない。ただの寂しいだけの駅。電光掲示板は正常に次の電車を伝えている。いやいや、これは人に取って代わった何者かが管理しているに違いない。徐々に現実へ引き戻されていくところへトドメの聞き慣れた黒い声。線路上を我が物顔で歩くカラスはいつもと変わらない色で、いつもと変わらない声をしている。ごく一般的な秋の哀愁を感じながら、来た道を辿って元の駅まで戻る。果たしてそこには、普通の人々による普通の風景が描き出されていたのだった。

09/12/2015

第12号編集後記 
日常生活が営まれている町は、普段、特別なことが起こらないように管理されている。祭りなどのイベントの日を除けば、淡々と暮らすために整備されているといってもいいだろう。でも本当は「毎日がスペシャル」であることを、生活者はうっすらと期待して生きているのではないだろうか。「ハレとケ」「日常と非日常」。日常の中のささやかな会話や出会いに、心が動く、そんな瞬間を待ち受けてもいる。巣鴨を代表する商店街「庚申塚通り」や「巣鴨地蔵通り」の賑わいをよそに、住宅地に入ると世界は一変する。都心の極めて標準的な街区だ。そんな町を散策していると、日常の風景の中にわずかな違和感、異景を読み取ることがある。それは極めて個人的な記憶や、経験によって、呼び起こされるものかもしれない。この「N町サンポ記」は、そんなひとりひとりのインナートリップでもある。(E) ご意見、情報は、[email protected]まで、お送りください。

No.11カッテーニ・プロジェクト1地蔵通り横丁命名計画地蔵通り、庚申塚通りは昔、中山道という立派な街道名があった。国道や、都道には名前があっても、小さな横丁には名前がない!ぐるぐる新聞では、この「横丁命名計画」に勝手にチャレンジしてみた。...
04/12/2015

No.11カッテーニ・プロジェクト1

地蔵通り横丁命名計画

地蔵通り、庚申塚通りは昔、中山道という立派な街道名があった。国道や、都道には名前があっても、小さな横丁には名前がない!ぐるぐる新聞では、この「横丁命名計画」に勝手にチャレンジしてみた。 町の生活道路に名前がなくても不便を感じない日本。小さなコミュニティのためだけの路。「○○屋さんのところを左に入って」とかいって、場所を指示する。それですんでいる。今ではグーグルマップがあるから、住所さえ分かれば手のひらの上でナビゲーションしてくれる。 パリの街はすべての通りに名前がある。ヨーロッパの都市は概してそうだ。京都も中心街はそうなっている。名前があると利便性だけではなく、そこに住む人の地域に対する愛情のようなものまで出来る。地蔵通りも、庚申塚通りもそのように愛されている。だったら、横丁にも名前を付けて、もっと地域に対する愛情が深くなるような、誇りに思うような、そんな工夫も大切ではないだろうか。ぐるぐる新聞はそう考えた。地元の人たちは利害関係があるから、命名はむずかしいだろう。わたしたちは「カッテーニ・プロジェクト」と称して、22の横丁に勝手に命名提案してみた。これを機会に、みんなで本気で通り名を考える、そんなチャンスになってくれればと思う。

江戸六地蔵通り巣鴨駅から白山通りと巣鴨地蔵通り商店街がぶつかるところ、江戸六地蔵尊のある眞性寺の横通り。ここはもうこの呼び名しかないだろう。駅から向って右手には、沢山の提灯の列と、珍しく鎮座した大きな地蔵尊。観る者を飽きさせないの心にスピリ...
04/12/2015

江戸六地蔵通り
巣鴨駅から白山通りと巣鴨地蔵通り商店街がぶつかるところ、江戸六地蔵尊のある眞性寺の横通り。ここはもうこの呼び名しかないだろう。駅から向って右手には、沢山の提灯の列と、珍しく鎮座した大きな地蔵尊。観る者を飽きさせないの心にスピリチュアルをもたらしてくれる。今度は外から眺めるだけでなく寄ってみようと思う。(東郷友哉)

いろいろ緑道十人十色。人だけではなく道にもいえる。この道はアプローチからカラフルな色に溢れている。インパクトなら、「クリップジョイントゴッド」。ともかく名前がスゴい。それからカバン屋さんの商品も多彩なのだ。奥に進めば左側が眞性寺の墓所となり...
04/12/2015

いろいろ緑道
十人十色。人だけではなく道にもいえる。この道はアプローチからカラフルな色に溢れている。インパクトなら、「クリップジョイントゴッド」。ともかく名前がスゴい。それからカバン屋さんの商品も多彩なのだ。奥に進めば左側が眞性寺の墓所となり、その片側に様々な緑が撩乱する。住民のみなさんの、生活を楽しむ癒しの彩りがうれしい。(深谷直紀)

住所

西巣鴨3-20-1 大正大学内
Itabashi-ku, Tokyo
170-8470

電話番号

03-3918-7311

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